コラム

2011.4.1

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鑑定評価書審査の実情と問題点
 国土交通省は鑑定評価書の審査体制の充実を提唱していますが、現在、鑑定評価書審査と呼べる精度の高い公正・中立な審査方法は存在していません。審査機関だけでなく、審査方法についても全く確立されていません。
 一方、鑑定評価書チェックの必要性からそれに近い効果をもたらすものとして、次のようなチェックが実際に行われています。

・二社鑑定によるチェック
 鑑定評価書を受領した個人・企業が、別の鑑定機関に正式鑑定を依頼するケースです。
→鑑定評価額が乖離した場合、果たしてどちらが正しいでしょうか。鑑定評価額が近似していても、両者が間違えている場合も考えられます。また、正式鑑定のためコストがかかります。

・簡易査定によるチェック
 鑑定評価書を受領した個人・企業が、別の鑑定機関に簡易の評価を依頼するケースです。
→時間的制約・予算の関係から、不動産鑑定評価手法の一部を省略したり、鑑定評価額に甚大な影響を及ぼす可能性のある価格形成要因(土壌汚染、有害物質使用の有無など)を考慮外・除外して評価を行うケースが多く見られます。机上査定といって、対象不動産を見ないで評価する場合もあります。正式鑑定以上の精度は期待できません。

・自己査定によるチェック
 鑑定評価書を受領した個人・企業が、独自の視点から評価を見直します。
→不動産鑑定評価に精通した人がいないケースがほとんどです。専門的知識の欠如、不動産市場データ収集の限界などから精度の高いチェックは期待できません。

・内部審査によるチェック
 国土交通省が提唱する「鑑定評価書の審査体制の充実」に基き、鑑定評価書発行機関内において、実際に作業を担当した不動産鑑定士以外の不動産鑑定士が審査を行います。
→同じ鑑定事務所の別の不動産鑑定士による内部審査です。これで果たして公正さが確保されるのでしょうか。中立とは到底言えません。また、不動産鑑定士の人数が少ない個人事務所・中小事務所においては、作業を担当した不動産鑑定士以外の不動産鑑定士がいないケースがほとんどです。

・鑑定協会による審査
 不動産鑑定協会による鑑定評価書審査です。
→事後審査で、不当鑑定かどうか、懲戒処分を行うかどうかを判断するための審査です。審査結果が不当鑑定となっても、経済活動においては既に多額の損害が生じた後です。
このように、現在、精度の高い公正・中立な鑑定評価書の審査はありません。審査機関だけでなく、審査方法についても全く確立されていません。

2011.4.15

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底地の鑑定評価額が更地価格を上回る?

  最近、事業用定期借地権付の底地の鑑定評価書で、更地価格を上回る鑑定評価書をよく目にします。
 鑑定理論上、更地価格と底地価格との関係は、『更地価格=借地権価格+底地価格』という等式で理解するのが一般的です。
国税庁の財産評価基本通達も基本的に鑑定理論と同じ考えを採っています。
 このような立場に立てば、底地価格が更地価格を上回るとなると、借地権価格はマイナスの価格となってしまいますね。しかし、マイナスの借地権価格が成立することは現実的にはありえません。

 底地価格が更地価格を上回るとする鑑定評価書では、借地契約期間満了後に同一条件にて再契約できるという「想定上の条件」を設定していますが、ここが大きな問題です。
再契約の時期は早くて10年先です。いまの時代、10年先は闇です。借地人が同一条件で確実に再契約してくれるという確証を持てる人がどれほどいらっしゃるでしょうか?

 ちなみに、不動産鑑定評価基準によると、
「想定上の条件」は、①実現性、②確実性、③合法性、④関係当事者及び第三者の利害を害するおそれがないこと、の4つの要件をすべて満たした場合のみ認められるとされています。
借地人にとってマイナスの評価額を付されることは、「関係当事者の利害」にかかわってくると思いますが、皆さんはどう考えますか?

2011.5.1

No_03.png 今まで鑑定評価書審査がなかったのはなぜか?

 今まで鑑定評価書審査がなかったのはなぜでしょうか。鑑定評価書審査が求められる背景(リンク)にあるような状況になかったことが大きな要因ですが、そのほかにもいくつかの理由が考えられます。
・価格形成メカニズムの変化
1980年代後半の不動産バブルの頃までは、賃貸不動産よりも更地の方が重用され、キャピタルゲイン狙いの不動産投資が主流だったため、取引事例比較法による鑑定評価が一般的でした。これに対して、近年の不動産市場では不動産が生み出すキャッシュフローが重視されるようになり、キャッシュフローの現在価値から不動産価格を求めるDCF法による評価が偏重され、鑑定評価手法の理解が難しくなってきました。
・開示資料や不動産指数(ベンチマーク)の充実
REIT市場の拡大により、不動産個別の開示資料などが広く入手できるようになりました。また、国土交通省による公表資料や賃料・利回りに関する市場データの入手も比較的容易になりました。
・内部統制の強化(コンプライアンス)
・不祥事に対する社会的監視の強化
「かんぽの宿」のような市場概念から逸脱した不動産取引に対して社会的関心が高まっており、監視の目が向けられている。